口唇口蓋裂診療

唇顎口蓋裂の治療は、他の診療と異なり特殊だと思います。それは、成長のことが考え先を見据えた治療が必要である点です。誕生されてから治療が終了するまで場合によっては20年近くかかります。この間に、患者さんの状態によっては様々な治療が必要となりますが、その各時点で100点を目指すことが最終的な成長時点での100点と必ずしも一致しないということがこの治療の難しい点だと思います。最終的な治療終了時点を念頭におきながら、治療をしていくことが必要です。

口唇口蓋裂診療において日本で最も長い歴史を持つ京都大学形成外科において、関係各科と連携しながら、初回治療となる唇裂手術から口蓋裂手術、顎裂骨移植手術、上下顎骨切り手術、最終仕上げの唇裂外鼻修正手術に至るまで全ての治療を行なっています。また、唇裂の二次修正手術も積極的に行なっています。

はじめに

このページをご覧になっていただいている多くの方が唇裂のお子さんをお持ちのご両親やご家族かと思います。口唇口蓋裂治療は私が医者になってからの20年の間でも目覚ましく進歩しています。ただ、やはり治療には限界があります。

これまでの人生において目にされた人の顔の数は住む地域や年齢にもよりますが、数十万人以上に上ると思います。口唇口蓋裂の出生率がアジア人では500人に1人ですので、概算で今まで数百人の口唇口蓋裂患者さんのお顔を何気なく目にされてきていると思います。しかし、今までそれが意識に上ってきたことはあるでしょうか? 私は形成外科医になるまでそういったところが気になった記憶はほとんどありません。しかし、口唇口蓋裂診療に携わるようになってからは、どんなに綺麗な手術を受けた後の方でもすぐに分かるようになりました。恐らく、ほとんどの患者さんのご家族も、急にそういった「敏感な目」をお持ちになることと思います。誤解を恐れずに申し上げるなら、患者さんご家族が患者さん自身を見て気になる部分は、実際には世間一般の認識とズレがあるかもしれないということです。

このようなことを申し上げるのは非常におこがましいですが、私がお伝えしたいことは、僅かな傷や歪みに囚われることなく患者さん自身の成長を精一杯見守って頂きいたいということです。患者さんはどんなに小さなお子さんでも、周囲の方が常にその部位を気にしていると本人もそこに囚われるようになります。全く気にしないというのは無理ですが、できる限り許容し本人の自己肯定感を育んでいただけたら幸いです。
ご家族の方も、私も、願いは綺麗な口唇や鼻にするということ、ではなく「お子さん自身に幸せな人生を歩んでほしいということ」だと思っています。

唇裂手術

初めての手術になるため安全性を第一に考えながら、出来るだけ左右対称なかたちを形成します。中でも小鼻の位置や赤唇の長さなど、後々に修正ができない部分は重点的に形成します。鼻については成長に配慮して最低限の侵襲でかたちを整えるようにしています。

レティナ装着

基本的に唇裂術後にレティナの装着をしていただいてます。レティナなしの治療をしたいのですが、現状では侵襲を少なくした上でかたちを改善するにはレティナの力が必要です。
ただ、レティナ赤ちゃんにレティナ装着を続けるのはお母さん方にとって大変な苦労だと思います。テープに穴を開けて装着するだけでも一苦労ですが、安定した付け方をしないと気付いたら赤ちゃんがレティナを口に入れて遊んでいたということも、、、
色々と試したりしましたが、今のところ一番効率的で良い方法を紹介してくださっているブログ記事をご紹介させて頂きます。この記事を掲載されているのも患者さんのお母様であり、お役に立てるのならと共有することを快く承諾してくださいました。

口蓋裂手術

発語にとって、軟口蓋の運動が非常に重要な役割を担っています。この機能「鼻咽腔閉鎖機能」といいます。1歳頃に良好な鼻咽腔閉鎖機能を得られる手術を行なっています。
口蓋裂の手術は裂を閉じるだけでは不十分であり、先程述べた鼻咽腔閉鎖機能を獲得することが目的となります。その機能において重要な筋肉(口蓋帆挙筋)の再建を手術用顕微鏡を使って重点的に行います。また、上顎の成長障害が生じないよう配慮した手術を行なっています。

他院で手術された後で上手く喋れない、瘻孔があいているという患者さんも多数ご紹介いただきます。そういった患者さんについても、瘻孔閉鎖や鼻咽腔閉鎖機能障害に対する修正手術を積極的に行っており、非常に良好な結果を得ています。
そういった治療(咽頭弁形成術)について、形成外科医にとって教科書的な立ち位置の雑誌形成外科に手術方法などを記載しています。

雑誌形成外科で口蓋裂の修正手術について記載しました。
教科書と論文の中間的な内容です。

抑制筒

唇裂と口蓋裂の術後に抑制筒を装着していただいています。
これまで良い商品がなく、患者さんのお母さんがご自分で作られていることが多く負担をおかけしていると思っていました。
そこで、口唇形成術と口蓋形成術を受ける3ヶ月〜18ヶ月くらいで装着できる抑制筒を企業の方に作って頂きました。生産コストを抑えるために男女兼用、ワンサイズとしています。また汚れることが多いため洗えるように固定具(アクリル板)は取り外せるようにしています。なるべく経済的な負担が少なくなるように価格設定もして頂きました。因みに私には一銭も入りません。
京大病院の地下の売店では常時購入していただけます。下記リンクからのお問い合わせも可能ですが送料がかかるかもしれません。


顎裂骨移植

矯正歯科の先生方と連携し、主に9歳頃に、歯の生え具合を確かめながら手術を行なっています。

上下顎骨切り手術

矯正歯科治療だけでは改善が難しい患者さんについては、口蓋裂術後の言語機能に配慮しながら手術計画を立てています。また、顔貌をより改善するため積極的に上下顎骨切り手術を行なっています。

唇裂修正手術

修正手術については、患者さんご本人の希望があればできる限り尊重して適応を判断しています。他医師からもう手術しようがないと言われた患者さんであっても、数多くの患者さんの手術を行なってきました。

高校生以上であれば、局所麻酔でも対応可能です。
「症例写真」をご参照ください。

唇裂外鼻修正手術

今までは唇裂の修正ということであくまで足りない部分を補う手術、つまり鼻尖の高さを出す手術などがなされてきました。
しかし、それでは患者さんのお顔全体を綺麗にするには不十分であり、鼻背や鼻中隔軟骨の湾曲、鼻孔の左右差や小鼻の大きさなど、全てに対してアプローチすることで最終的な仕上げとしています。
詳しくは「お鼻の治療」「症例写真」をご参照ください。

修正手術の診察について

唇裂関連の修正手術は保険適応となる場合がほとんどですが、審美的な鼻形成術、ヒアルロン酸注入やプロテーゼ留置などの治療を希望される場合は自費診療となります。
自費診療については加藤クリニック大阪院で治療を行います。

外鼻手術などのように比較的大きな手術の場合は京大病院での治療が必要となりますので、京大病院で治療を受けていただく場合の流れをご説明します。

まず、京大病院受診には紹介状が必要となります。
可能ならこれまで治療を受けてこられた病院から紹介状を作成して頂いてください。治療終了後、時間が経過しているため紹介状を作成していただくのが難しい方が多いと思いますので、その場合は形成外科でなくても構いませんので紹介状を作成して頂き、その医療機関を通して診察予約をお取り下さい。
京大病院に受診して頂いてから適応となる治療や手術日をご相談させて頂きます。
常に手術が混み合っており、半年以上はお待ちいただくことになるかと思います。